刺身など生の魚を食べることで取り込んでしまう線虫、アニサキスでの感染症が増えている。厚生省の発表では2013年の数字ではアニサキスによる中毒は88件で、ノロウィルスなどに次いで3番目だ。
実は身近なアニサキス
故森繁久彌氏がアニサキスで開腹施術を受けているが、最近も幾人ものタレントさんが「自分も感染した」と語っていて、厚生省の統計より実態はもっと多く、身近な感染症のようだ。感染と言っても、事実は寄生虫のアニサキスが付いていた生魚を食べて、体内に入ったアニサキスが胃や腸などの内臓壁に潜り込むことで耐えがたい痛みが走るというものだ。
魚はサバ、サンマ、サケ、ハマチ、イカなど様々で、これらを食べることで感染する。通常アニサキスは、魚の内臓にいるので、料理の際は速やかにワタを取ることが必要だが、魚が死ぬと身の方に移って来て、人の口に入ってしまう。
感染しても、大体一週間ほどで体外に出されるが、時に数か月もいて慢性化することもあるらしい。また稀にアニサキスのアレルギーに繋がることもある。アニサキスの駆虫薬はまだないため、最も効果的な処置は内視鏡を使って除去することだ。当然だが、除去すると刺すような痛みは嘘のように消えてしまう。
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熱に弱いアニサキス
最大の予防処置は温度で、60度以上の加熱で数分で死滅する。外国での経験だが、釣ったばかりのニシンをもらい焼いていたところ、熱を避けようとアニサキスが表面に出てきたことがあった。低い温度も有効で、-20度を24時間続けることで死滅する。オランダでは酢漬けのニシン料理が家庭でも良く食卓に上がるが、酢漬けの前に-20度で24時間処置をすることが義務付けられている。
アイヌの知恵なのか「ルイベ」
サケは刺身で食べるにはしっかり管理されたものでなければ危ない。昔から“ルイベ”という凍ったサケの刺身が北海道でポピュラーだ。ルイベはアイヌ言葉で「融ける食べ物」を意味するが、雪の中にサケを埋めて保存し、食べる際に取り出して凍った身を食べる。ロシアの最も寒い地域で有名なサハ共和国にも同様の“ストロガニーナ”と呼ばれる冷凍魚の食べ物がある。どちらも保存食ではあるが、凍らせることで寄生虫を駆除する知恵であったのかもしれない。
家庭用の冷蔵庫では-20度には達しないようで、家庭でのアニサキス防止低温処置は難しいようだ。
がん発見に役立ったアニサキス
小欄4月20日付け「がん検診に日本発の革命」で紹介の、線虫によるがんの早期発見技術、きっかけはアニサキスががん病巣に集まっていたのが端緒だった。
参考:国立感染症研究所、厚生労働省