シャドー81 (Shadow81)
|ルシアン・ネイハム ハヤカワ文庫
ルシアン・ネイハムがこの作品を発表したのは1975年、この年にベトナム戦争は終結し、ボーイング747、ジャンボジェットはデビュー5年目を迎えていた。
ハイジャックものだが、航空パニックとは異なる。ハイジャッカーは機内にはいない。姿なき戦闘機・シャドー81が、ロサンゼルスからハワイへ向かうジャンボの背後にぴたりと迫り、身代金に応じなければ撃墜するとアメリカ政府を脅す。
戦闘機を使って、飛んでいる民間機を人質に取るといったスケールの大きなプロットだが、姿を見せない戦闘機・シャドー81は米軍の最新の垂直離着戦闘機TX75Eで、これをどのように入手するのか。この件が薄っぺらだとつまらないのだが、戦闘機は北ベトナムで作戦中に撃墜されたことを装い、パイロットとともに船に隠してアメリカ近海まで持ち込む。燃料として灯油を調達するシーンも出てくる。ジェット燃料、ケロシンの成分は灯油と似ているのだ。ストーリーの半分ほどはこのあたりのディテールに費やされ、納得できる。
ジャンボの機長とハイジャッカー、それにロサンゼルス管制の3者が緊迫のやり取りを繰り広げるが、それぞれのプロ意識に、互いに信頼感すら芽生える。航空ものでは凄惨な場面も出てきがちなのだが、この小説では誰も死なない。そればかりかジャンボの中では酒盛りまで始まって、乗っ取りにあった乗客たちはなんとものどかなのだ。
ルシアン・ネイハムは1929年生まれなので、存命なら88歳だが、このシャドー81、一作を発表しただけで1983年に亡くなってしまった。ジャーナリストだったが、自らも飛行機のライセンスを持っていて、飛行機のシーンの描き方は正確だが、気になるシーンもいくつかある。
シャドー81が、警告のために海面スレスレを飛ぶジャンボの前方にミサイルを撃ち込み、ジャンボに数トンもの海水が降り注ぐシーンがある。
それだけ大量の水をかぶると、いかにジャンボとはいえ、海面への接触や、エンジンに大量の水が吸い込まれフレームアウトを起こして墜落する危険があるだろう。また、ロサンゼルスから出発のシーンではタラップがついて乗客の搭乗が終わっていないにも関わらずエンジンをスタートしている。もしかして昔のアメリカの空港ではこのようなことがあったのかしらん。と驚いた。
40年も前に書かれた小説だが全く古さを感じない。発表当時映画化の話もあって、スティーブ・マックィーンやロバート・レッドフォードの名前が挙がっていたが何故か実現されなかった。
現場臨場
パラセル(西沙諸島)
中国、フィリピン、ベトナムなどに囲まれた南シナ海の環礁。中国、台湾、ベトナムが領有権を主張しているが中国が実効支配をしている。シャドー81が奪った戦闘機TX75Eをパラセルのボンベイ環礁近くに隠す。垂直離着陸機故に滑走路のない小さな島へも着陸できる。南沙諸島とともに領有権問題がホットなエリア。中国ではパラセルへの旅行が売られているようだが、外国人は参加できない。
香港
シャドー81がTX75E を運ぶために中古の貨物船を買い求める。香港島や近隣の海を試験航海で走り回る。マカオなどへのフェリーでも気分を味わえる。香港へは羽田、成田はもとより、札幌(新千歳)名古屋(中部)、大阪(関西)、福岡、広島、那覇などから直行便多数。
ロサンゼルス国際空港
ハイジャックにあうPGA航空81便が出発し、その後戻ってくる。40年前とは様変わりしているが、国際線用のトムブラッドレーターミナルを入れて9のターミナルを配するアメリカ西海岸の玄関口。
羽田、成田、関西から直行便