新・新幹線殺人事件
|森村 誠一 光文社文庫ほか
プロローグ、博多から東京へ向かっていた「ひかり116号」の車内で刺殺死体が発見される。物語は1985年に発表されているので、時代背景はおよそ30年前ということになる。同じく森村誠一氏による「新幹線殺人事件」は1970年に発表されているのでこの頃は、新幹線と言えは説明せずとも東海道新幹線であった。しかし前作の15年後に出た本書の時代は、博多開業はもとより、東北(盛岡まで)上越と新幹線が揃っていた。
ストーリーはひかり車内での殺人に加え誘拐や詐欺事件が重なって、まるで犯罪のデパートのように複雑に絡みあう。
博多に単身赴任しているサラリーマンが、新幹線で東京の家族の元を往復する様が描かれる。新幹線がビジネスや生活を支えている様が30年前の時代を思わせる。浮上した容疑者は被害者が殺害された新幹線より40分以上も遅く博多を出る「ひかり4号」に乗っていた。先行する116号で殺人を犯し、また元の列車に戻れるのか?鉄壁のアリバイとも思わせるが、列車密室殺人の王道ともいえる意外ななぞ解きが展開する。
現場臨場
新幹線 0系
30年の時は重くて、現場臨場も限られる。新幹線は、開通した1964年から20年もの間0系と呼ばれる丸い鼻の車両の一本やりで、新幹線と言えばこの0系だった。新・新幹線殺人事件が上梓された1985年には、後継車両の100系がデビューしているが、事件の現場となっているひかり116号は各駅停車タイプの列車なので0系であったろう。今は全車リタイアで乗ることは出来ないが、レジェンドとして、大宮の鉄道博物館などで見ることが出来る。
殺人の伏線となる詐欺事件の現場として東京の赤坂Pホテルが登場する。白を基調としたロビーを持った、高級感あふれるスタイリッシュなホテルとして登場するが、この物語の2年前に開業した当時の赤坂プリンスホテル新館と思われる。場所柄、政治向きのパーティーが多かったが40階建ての赤プリ新館は、若者に人気でクリスマスシーズンはカップルで埋まった。こちらもすでに取り壊され今はない。