阪急電車
|有川 浩 幻冬舎
DVD 阪急電車~15分の奇跡~ スピンオフ版あり
阪急電車の中での出会いを軸に、様々なストーリーが、まるで駅伝のたすきリレーのように展開する。それぞれのエピソードに主人公はいるのだが、主役は舞台となっている阪急電車と言えそうだ。電車は宝塚と西宮北口を結ぶわずか15分ほどの今津線。
関西圏に住まない者としては、阪急電車には、梅田を中心に神戸三宮と京都河原町を結ぶ関西圏の大動脈としてのイメージが先に立つ。9本のホームに次々と電車がやって来る巨大ターミナル大阪梅田の印象が強すぎて、この物語のように“ほっこり感”のあるのどかな阪急電車はこの本を手に取るまで浮かばなかった。物語は今津線の8つの駅ごとに展開するが、燕が駅の軒先に作った巣を大事にするエピソードなど、駅員さんがそれぞれの駅をとても大切にしている様子が所々に登場し、物語を彩っている。
有川さんの創り出すストーリーは、痛快だが暖かさに満ちている。寝取られ女の結婚式討ち入りシーンはハラハラしながら読んだし、暴走おばちゃんらを懲らしめるシーンはいかにもありそうで、相槌を打ちながら読んだ。
彼女の作品は「空飛ぶ広報室」など自衛隊を舞台にした作品が多いが、ラブストーリーでは、読者のくすぐりどころを十分に心得ているだけに、たとえおじさんが読んでも胸にハートマークが灯る。
映画がDVDで発売されているが、先に本を読んで、読者なりに情景を膨らませることをお勧めする。
現場臨場
阪急電車今津線と各駅
阪急梅田から神戸三宮方面の電車に乗り、西宮北口にて乗り換え、宝塚方面が物語に登場する今津線だ。しかし物語でわかる通り、途中、今津と言う駅は出てこない。実は今津線はさらに西宮北口から宝塚とは逆方向へまだ二駅あって、その終点が今津駅だ。
西宮北口駅は神戸本線と今津線が交差する駅で、古い鉄道ファンならご存知だろうが、1984年まではダイヤモンドクロスと呼ばれる、道路の交差点のように両線のレールが平面で直角に交差する、非常に珍しい駅だった。
現在の今津線は、西宮北口を境に南北に分断され、ダイヤモンドクロスは無くなった。
関西の駅名も難読や意外な読み方の駅が少なくないが、今津線の各駅も味がある。逆瀬川は“さかせがわ”、門戸厄神“もんどやくじん”は、門戸厄神東光寺の門前駅だ。小林は“こばやし”ではなく、“おばやし”と読ませる。ソウルの空港のような仁川は“にがわ”だ。
電車とともに、物語に登場する各駅の趣も楽しみたい。
梅田から西宮北口まで、特急12分、各駅停車18分