東京空港殺人事件

森村誠一

冒頭、大型ジェット機による2件の航空機事故が語られる。1件は北極海での不時着事故、もう1件は東京湾への墜落事故だ。物語のステージはおそらく1970年代で、描かれている航空機は架空の飛行機だが4発エンジンなので、ボーイング707かダグラスDC8のイメージだ。どちらもジャンボ機以前の懐かしい第一世代のジェット旅客機だ。

当時の日本からのヨーロッパ線は、飛行機の性能と最短ルートのソビエト上空が解放されていなかったため、アラスカのアンカレッジを経由するポーラルートがメインルートだった。そのため北極海への不時着も荒唐無稽な話ではない。実際に当時、このルートを飛行する旅客機は北極エリアへの不時着を想定して、コックピットにはシロクマと遭遇した時のために、猟銃が搭載されていた。(ホントの話)

もう一件の墜落事故は、1966年に起きたボーイング727型機の墜落事故にヒントを得ている。著者の取材は細かく、実際の事故での管制官の呼びかけのフレーズ「着陸灯を点灯してください」がそのまま使われている。この事故については柳田邦夫氏の著作「マッハの恐怖」(大宅壮一ノンフィクション賞)に詳しい。

小説は航空会社の新機種導入に絡む殺人事件に発展し、航空会社の重役や米人のメカニックなどが殺害される。特に重役の殺害は、空港内ホテルの密室で、真相は「えっ」と鼻白むのだが、はじめは読者を煙に巻く。

航空事故の描写が細かいので、空の旅には勧めないが、鉄道旅のお供にはお手軽だ。

 

現場臨場

羽田空港

 

物語の羽田空港は1970年代と思われるので、今の羽田空港から当時の片鱗を探すのは難しい。唯一あるとすればこの鳥居。かつての羽田空港の駐車場に場違いに建っていた鳥居を覚えている方もいるのでは。近くの穴森稲荷神社の参道の鳥居だったが、米軍の接収時代にも壊すに壊せず生き残ってきた。B滑走路が新しくなる際に移設され、今は海老取川の河口、弁天橋たもとに鎮座する。京浜急行、東京モノレール天空橋下車、徒歩5分。