パイロットの妻(The Pilot’s Wife)
|アニータ・シュリーブ 新潮文庫 DVD版 日本発売「ジェット247」と改題
この作品を乗り物小説として取り上げるかどうか、書いている本人も抵抗があるが、ストーリーは素晴らしい。“抵抗”の意図するところは乗り物の描写が出てこないからだ。
パイロットの妻キャサリンは、未明に玄関のドアを強くノックする音で起こされる。ドアを開けた彼女は玄関に立つスーツ姿の男を見て、すぐに夫の操縦する飛行機が事故にあったことを察知する。夫のジャックが機長を務める旅客機がボストンからロンドンへ向かう途中、カナダ沖に墜落する。
飛行機のシーンがないため、乗り物好きにはいささか欲求不満が募るが、押し寄せるマスコミや原因追及にあたる事故調査機関、さらに捜査機関も加わりキャサリンや一人娘の心を乱す。作者は女性だけに、このあたりの描き方が女性の心理をとらえて引き込まれる。
事故原因に話が進むと一気にサスペンスめく。CVR(コックピット・ボイス・レコーダー)には機長のジャックが機内に爆弾を持ち込んだのではないかと窺わせる録音が入っていた。IRAに協力したテロだったのか?それともジャックの自殺だったのか? 色々な説が飛び交う。それだけに母娘に対するマスコミの取材は一層強引さを増す。それでも妻は冷静だ。事の真相を探るため、事故機の目的地ロンドンへ向かう。しかしそこに待っていたのは、妻の知らない夫の二重生活だった。墜落の真相は何だったのか・・。
ビデオは、タイトルも「ジェット247」と変えてリリースされている。しかも衝撃のスカイパニックサスペンスと、飛行機のシーンはないに等しいのに、あたかもパニック物を装うあざとい外装となっている。それでも内容は原作を結構忠実に映像化している。
原作では飛行機はT-900 なる架空の機種だが、映像で出てくるシルエットはB747 -400 。コックピットのシーンが一瞬出てくるが、スラストレバーが結構ばらばらにセットされていて、あれではかなり左右アンバランスなエンジン出力で飛行している。
現場臨場
ロンドン・ヒースロー空港
ロンドンの4つの空港の中で最も大きく、日本からの便はすべてこのヒースローに到着する。ドバイに抜かれるまで世界最大の利用者数を誇っていた。
マリン岬(アイルランド)
ジャックの飛行機が墜落した海にもっとも近い場所、アイルランド最北の岬。夏の間も平均気温が13~14℃と冷涼な気候。本当に何もないところのようだ。北アイルランド第二の都市ロンドンデリーからおよそ60㎞。ロンドンデリーへはロンドン・スタンステッド空港から直行便あり。