フライト(FLIGHT)
|ロバート・ゼメキス監督 DVDあり
タイトル通り航空ものだが、アルコール、薬物依存症とのシビアな闘いのストーリーでもある。パイロットは、高いプロ意識に裏打ちされた職業で、特に機長ともなると、単に操縦技術に長けているだけではなく、人格も高潔で、世の模範となるべき人柄が要求される。ところがデンゼル・ワシントンが演じるサウスジェット航空のウィップ・ウィトカー機長は、裏ではフライト中にウオッカを盗み飲みするわ、乗務の前にコカインを吸うわ、とんでもない所業を平然とやってのける。しかし操縦の腕は確かで、30ノットの強い横風の吹く嵐の中を離陸、強烈なタービュランスで副操縦士もビビる中、アルコールの酔いをおくびにも出さず、冷静に機を操る。
飛行機が安定した巡行中は、高いびきを上げて副操縦士をあきれさせる。しかし突然機体の安定は失われ、いきなり下げ蛇となった機体は、真っ逆さまに降下を始める。
これにもウィトカー機長は冷静で、フラップや車輪を出して降下スピードを少しでも落とす操作を行う。それでも下げ蛇が戻らないと判断すると、イチかバチかで背面飛行を試みて、墜落を免れる。
登場する飛行機は、旧マグドネルダグラスのMD-80と思しき機体だ。昔ジャンボジェットが宙返り飛行が可能かどうかの議論を目にしたことがあるが、構造的に可能かどうか結論は出ていなかったように記憶している。この映画のようにMD-80クラスの機体が背面飛行に耐えられるのかどうかもわからない。
航空マニアが「?」なのは、」不時着前に2基あるエンジンがどちらも火災を起こし、消化スイッチが使われる。そうすると、エンジンの中に消化剤が吹き付けられエンジンは停止するのだが、それにも関わらず、エンジンはその後も回転を保っている様子が描かれる。
飛行機は住宅地を避けて不時着し、6名が死亡するが、そのほかの100名近くが無事生還する。困難な中での見事な不時着で、機長の卓越した技量で多くの人が救われたとウィトカーは称賛を浴びる。しかしその後、アルコール摂取の疑惑など、ウィトカーを英雄とする見方が徐々に変わっていく。
事故調査委員会の公開査問の場で、事故の原因は機体の重大な故障であったことが明らかとなる。しかしそれとは別に、機内で見つかったサービス用ウオッカの空瓶が問題となる。誰がウオッカをあおったのか。機長のウィトカーである事実が明らかになると、終身刑は免れない。追い詰められた彼はなんと答えるのか。
現場臨場
オーランド(アメリカ フロリダ州)
オーランドのシーンは、雨の駐機場と空港ホテルの一室のみ。オーランドにはオーランド国際空港とオーランド・サンフォード国際空港があるが、登場するのはオーランド国際空港。
オーランドはウォルト・ディズニー・ワールドリゾートがある関係で、訪れた経験のある方も多いだろう。フロリダは温暖で過ごしやすいところだが、フライトで描かれるような嵐もままある。特にここ数年は、フロリダ半島を襲うハリケーンの大型化で大きな被害が出ることもある。
日本から直行便は無い。ダラス、ヒューストン、シカゴ、ニューヨークなどで乗り継ぎ、東京からおよそ18時間
MD-80
モデルとなっている飛行機。残念ながら日本の航空会社では一機も残っていない。かつてはソウルや台北から乗り入れる外国機があったが、こちらもほとんどリタイアで、乗ることはかなわない。アメリカ国内線ではMD-80シリーズの弟のMD-90 シリーズはまだ結構飛んでいる。
ちなみに映画フライトで描かれる、機体の不具合による急降下はモチーフとなった実際の事故があって、2000年にアラスカ航空のMD-83 が急激な降下で太平洋に墜落している。
監督ロバート・ゼメキスは「バックトウザ・フューチャー」が思い浮かぶが、脚本での参加だが「1941」の面白さはぴか一。