茜のフライトログ

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夏見正隆著    トクマノベルズ(絶版)

航空ものやファンタジーノベルを得意としている夏見氏の作品を読んだのは実は初めて。新書版のライトノベルで、気軽に読めるが、掘り出し物を探し当てた感がある小説だ。

フライトログとは航空日誌のこと。パイロットも客室乗務員も、それぞれ自分のフライトログを付けていて、飛行時間などの他、フライトごとの事例などを記録している。

太平洋航空の客室乗務員になりたての伊豆丸茜(いずまるあかね)は、OJT(On the job of Training)つまり見習いフライトで、ニューヨークから成田へ飛ぶ。

緊張で一睡も出来なかった茜は、はっきりしない頭で、14時間のロングフライトに臨むが、ビジネスクラス・コンパートメントを担当の茜は食事の盛り付けを間違えるわ、乗客からはしこたま怒鳴られるわ、涙が出そうなことばかり。しかし茜を怒鳴りつけた乗客が倒れる。乗り合わせた医師の診断で、持病の心臓疾患とわかるが、一刻も早い処置が必要となる。しかしカナダからアラスカにかけての航路上は大きな低気圧に覆われ、どの空港も強烈な吹雪に見舞われ、降りることが出来ない。Aの処置をするのか、Bの処置をするのか?空の上での2者択一の選択が求められるが、既往歴が分からないので、手を下せない。

アラスカの空港へ緊急着陸はできるのか。一刻を争う急病人はたすかるのか。

航空ファンも納得できるスリリングな展開が続く。

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2004年の初版なので、女性客室乗務員の呼称が、スチュワーデスからCA(Cabin Attendant)に変わったころだ。夏見氏のストーリーは、何より取材が綿密だ。クルーのステイ先のニューヨークのホテル出発から機内までの描写、これだけで物語の半分のボリュームになってしまうのだが、会話の中には、航空業界特有の単語がポンポン飛び出す。さらにいかにもクルーが言いそうなセリフ回しで、ちょっと古めの航空マニアにとっては臨場感抜群。離陸の場面では、茜がOJTの一環でコックピットオブザーブもするので、純なコックピットオタクも満足。しかもこの手の小説はどこか無理な表現や「ありえない!」と思ってしまう記述があるものだが、ほとんど納得、粗さがしの突っ込みどころはない。

機内で医者を探す「ドクターコール」が行われるが、当初応じる医者はおらず、切羽詰まった所で一人の医者が名乗りでる。医療機器などがない中での診断、処置が強いられるため、医療訴訟などを恐れて名乗り出ない医師もいる。あるアンケートでは、最初のドクターコールで名乗り出る医者の割合は半分に満たないという。この物語はそんな側面も見せてくれる。

このタイトルや、登場人物の描き方など、夏見氏はきっとシリーズ化の意図があったのではないだろうか。読者として、アシスタントパーサー、パーサー、チーフパーサーへの茜の進歩も読んでみたかった。

現場臨場

ニューヨークJFK空港

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ニューヨークにはこのJFKの他、ラガーディアと、州は異なるが、ニューアークの3空港がある。JFKはご存知の通りジョン・F・ケネディ元大統領に由来していて、その前はアイドルワイルド空港だった。1942年、アイドルワイルドのゴルフコースに滑走路を造ったのが空港の起こりだが、現在6つのターミナルを持つアメリカ東海岸を代表する大空港となっている。

成田、羽田(10月下旬~)からJFKへ直行便あり。

アラスカ上空

随分と昔は欧米線の飛行機はアラスカのアンカレッジに降りて燃料を補給するのが常だった。今の旅客機は燃料補給は不要としても、アメリカ東海岸やシカゴなどからの便はアラスカ上空を飛ぶ。物語ではアラスカの悪天候に悩まされるが、晴れた中を飛ぶとデナリ(旧マッキンリー山)がきれいに見えることも。アラスカ上空から通信状況の悪い短波無線の通信局「ホンコンドラゴン」を通して、東京のオペレーションセンターとコミュニケーションを取る場面が出てくる。衛星経由のデータ通信が出てこない。

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アメリカ東海岸と日本や韓国などアジアを結ぶ便は上空通過