大空港 (AIRPORT)

アーサー・ヘイリー   ハヤカワ文庫  DVD


文庫版は上下巻になる長編小説だが、抜群の面白さで一気読み必至だ。その後、数々登場した、航空機パニックストーリーはこの小説に端を発する。グランドホテルタイプと言われる物語展開で、主人公はおらず、様々な登場人物が織りなすストーリーが複雑に交錯する。あえて主人公を上げると、一つはリンカーン空港(モデルはシカゴオヘア空港)もう一つはボーイング707だろう。

1970年に製作された映画も小説をかなり忠実に映像にしている。大雪のリンカーン空港に着陸した707が滑走路を逸脱し、滑走路をふさいだまま動けなくなってしまう。一方、ローマへ旅立った707には人生を悲観し、爆薬を持った男が乗り込んでいた。男が飛行機に搭乗する際、たまたま見かけたベテランの税関スタッフは、挙動不審な男の態度に「あの男がこれから飛行機に乗るのではなく、入国するのなら、(密輸の可能性を疑って)徹底的に調べるだろうね」と語っている。この時代は航空機を使ったテロも無ければ、自殺するために多くを巻き添えにすると言った恐ろしい考えもなく、搭乗者への荷物チェックも甘い時代だった。

爆弾は結局後部のトイレで爆発、機体に穴が開き、同時に機内の与圧が一気に抜ける。この様な事態に陥った時は、空気の濃い高度まで緊急降下を行う決まりだが、降下は機体にストレスがかかるので、機体の破壊が広がらないよう急ぎながら慎重にやらなければならないらしい。

どんな時でもわがままな乗客はいるもので、客室にやって来たパイロットが、パニックに陥った一人の乗客を鎮めるため、思わず殴ってしまう。根に持った乗客はその後、航空機関士に「機長に殴られた」とクレームするが、「黙らないと航空機関士にも殴られますよ」と返される。高校生当時、アメリカ人はこんな時でもユーモアが出るんだ。と変に感心したものだった。因みにこの乗客はその後隣席の神父にも張られている。

機体に穴をあけたままの707はリンカーン空港へ引き返すが、風向きから、着陸失敗した707が塞いでいる滑走路がどうしても必要となる。空港長は機体を破壊しても滑走路を開けようとするが、整備主任のジョー・パトローニはエンジンをフルパワーにして雪の中から707を無傷で脱出させる。若い整備士は「機体マニュアルではこんな無茶をやってはいけないと書いてありました」と語るがパトローニは「それがこの707のいいところだ」と返答している。また無事着陸した707に開いた大きな穴を見つめながら、パイロットが「よくぞ(破壊せずに)もったものだ」と言っている。707がいかに安全でタフな飛行機かとのアピールになり、ボーイングにとっては大きなPRになった。

映画「大空港(AIRPORT)」は世界中で大ヒット。その後、「アーサー・ヘイリーのエアポートを基調として」とクレジットされたエアポート・シリーズが3本作られたが、パトローニを演じたジョー・ケネディ(2016年逝去)は、あたり役となってその後のシリーズすべてに出演している。

シカゴ・オヘア空港

現場臨場  シカゴ・オヘア空港

リンカーン空港は架空の空港だが、物語の終盤707が塞いでいた滑走路28が開いて管制官から「Clear to Land(着陸支障なし)」が出されると、機長役のディーン・マーチンから「ありがとうリンカーン、また奴隷を解放してくれたな」と粋な交信が交わされる。モデルとなっているのはシカゴのオヘア空港だ。オヘアは8本の滑走路を持ち、一時期世界でもっとも離発着回数の多い空港だった。今でもその忙しさは変わらず、オヘアで上空を見上げると、色々な方向へ飛行機が飛んでいて驚かされた。第一ターミナルのコンコースを結ぶ地下通路は光のプロムナードとなっていて楽しい。オヘアの名称は第二次世界大戦のエースパイロット、エドワード・オヘアに由来している。JALもANAも成田からデイリーで、現場臨場に不便はない。

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