フライトゲーム (FLIGHT GAME)

2014年 アメリカ作品

主演:リーアム・ニーソン       

監督:ジャウム・コレット=セラ

姿なき犯人は機内に

エア・マーシャル(フライト・マーシャルと呼ばれることもあり)連邦航空保安官(FAM)が主人公のサスペンス・アクション映画。FAMは身分を伏せたまま、一般乗客に紛れ私服で飛行機に搭乗し、機内の安全をはかる。FAMのビル(リーアム・ニーソン)は、ニューヨーク発ロンドン行きの便に同乗する。ビルは腕は立つがどうやら組織の中ではアウトローで、規則にしばられるのは大嫌いなタイプ。飛行機が離陸するとトイレに入り、スモークディテクター(煙感知器)をガムテープで覆い、ばれないようにしてタバコをくゆらす。

飛行機が大西洋上に出たところで、彼のスマートホンに「指定の口座に1億5千万㌦を振り込め。さもなければ20分以内に乗客を殺害する」と脅迫メッセージが入る。150人近い乗客、この中に犯人がいるのか。FAMはビル以外にもう一人ハモンド保安官が乗っていたが、彼は犯罪に汚染されていてビルを襲うもののビルの反撃で命を落とす。皮肉にもハモンドの死で、脅迫メッセージの通り20分以内に一人が亡くなったことになる。

犯人が指定した口座の名義はなんとビルのものだった。そのため連邦航空保安局のスタッフや機内の乗客達には、ハイジャックの犯人はビルその人ではないかとの猜疑心が膨らむ。

 

最近急速に広がっている機内Wi-Fiによるネット接続が、この映画のキーポイントだ。機内の通信が繋がっているために、犯人からのメッセージがビルのスマホに届き、地上のニュース映像がリアルタイムで機内テレビに映し出される。そればかりか機内の様子をスマホで中継する乗客まで現れる。ネットを使った閉鎖空間での姿の見えない敵がこの映画の恐ろしさだ。操縦室で機内Wi-Fiを切断してしまったら良いのだが、それではこの物語が成り立たない。

さらに機内に時限装置のついた爆弾も持ち込まれていることが分かり(なぜセキュリティチェックをかわして持ち込めたのかはDVDを観て確認頂きたい)

最後まで分からなかった犯人が姿を現し、機内での銃撃戦や爆弾の爆発、コントロールを失いつつある飛行機の地上への生還など、航空パニックの全ての要素が盛り込まれたエンディングへと向かう。

ちなみに高空を飛ぶ飛行機の中での銃の発射は、機体に穴が開く可能性から極めて危険な行為だが、エア・マーシャルが携帯するのは、人体にはダメージを与えられるが機体壁など固いものに当たると貫通せずに粉々になるフランジブル弾丸を使った銃だ。

モデルはボーイング787か

しかし航空ファンとしては首をかしげる箇所はいくつもある。ビルは脅迫メールを直ぐにデビット・マクミラン機長に告げる。ところが機長は、いたずらの可能性も高いとして、引き返すかどうかの判断をビルに委ねる。航空機の中で絶対権限を持つ機長が判断を第三者に任せることはありえない。もし万が一脅迫がマーシャルの持つ公用スマホでなく私用のスマホに入ったとしても脅迫文である限り直ちに引き返し、ないしは最も近い空港への着陸を決断するだろう。が、それではドラマが成り立たない。

機長は謎の死を遂げ、操縦を任された副操縦士は万が一爆発が起こった際の対処として高度8千フィート(およそ2400m)への緊急降下を要請する。周辺に降りられる空港がない洋上での判断としては至極当然の判断なのだが、地上のコントローラー、ないしはFAMはこれを拒否する。これもあり得ない。爆発物を載せて、緊急事態の可能性がある航空機のリクエストが最優先される。

機体はボーイング787がモデルになっていると思われるが、主翼の先端が上方に上がっている、レイクド・ウイング・チップが見えない(もっともついていない機体もある)ほか、窓のウインドウシェードが787の特徴の電子シェードになっていないなど、767の様でもある、ちょっと不明な機体となっている。

余談だが、チーフCA役のミシェル・ドッカリーは、ダウントンアビーの長女、メアリー・クローリー役以来、筆者お気に入りの女優で、今回もビルを最後まで信じてCAの仕事をこなす役で好感。

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現場臨場

ケプラヴィーク国際空港(アイスランド)

傷ついた飛行機が着陸を試み、無事生還するアイスランドの空港。首都レイキャビクとは50㎞離れているが、レイキャビク空港を上回る3千㍍滑走路2本を持つアイスランド最大の空港で、国際線は殆どがこのケプラヴィークを使う。

アイスランドは北大西洋の島国で、北海道と四国を合わせたほどの面積に30万人余りが暮らす。火山島としての人気も高い。

日本からの直行便はない。ロンドン、フランクフルトなどヨーロッパ主要都市や北米からの便がある。アイスランド航空やLCCのWOWエアがハブとしている。

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アビエイター (Aviator)

監督:マーティン・スコセッシ

主演:レオナルド・ディカプリオ

DVD

ハリウッドでの活躍

筆者としては本来の発音通りにエイビエイターと呼びたいが、映画でも一般に呼ばれているようアビエイターと呼ぶことにする。ご存知飛行家、ハワード・ヒューズ(ハワード・ロバート・ヒューズ・ジュニア1905~1976年)の物語だ。Hヒューズは1905年テキサスの、石油採掘に関わる掘削機器を扱う、たいへん裕福な家庭に生まれた。大の飛行機好きな彼は、その財力を持ってハリウッドの映画製作に乗り出し、第一次世界大戦の空戦映画「地獄の天使(Hell’s Angel)」(1930年公開)を作り上げた。ハワードは、特に空中戦のシーンには大変なこだわりを見せ、実際の飛行機(複葉機)を80機以上も揃え、カメラも26台では足りず、別の映画会社から借り入れようとし断られる。

恐ろしいほどのフィルムを費やし、ようやく完成させた作品のプレミア試写会の場で、ちょうどその時、技術の進歩で世に出てきたトーキー(映像と音を同時に出せる映画、それ以前は無声映画で、弁士と呼ばれる説明者がいた)を使って撮りなおそうと言い出す。妥協を知らない無茶振りは、映画製作だけでなく、飛行機作りのシーンでも度々描かれる。

ハワード・ヒューズ

彼はヒューズ・エアクラフトというメーカーを立ち上げる。映画では、彼が制作に関わった2つの飛行機が登場する。一つは高速偵察機XF-11、空気抵抗を極力避けるために、リベットの頭を平らにカットして、機体からごつごつとしたリベットが飛び出さないように、設計者に言明するシーンがある。小声でブツブツと要求を何度も繰り返すハワードのパラノイア状態が描かれ、ぞくっとする。タイトル通り、飛行機に関わるエピソードは幾度となく登場する。XF-11はハワード自らが操縦桿を握りテスト飛行をするが、機体の不具合からビバリーヒルズの住宅地に不時着し重傷を負う。更に軍用輸送機とするべく開発した超大型飛行艇H-4ハーキュリーズの開発も登場し、こちらもハワード自身が操縦した、たった一度のテスト飛行も描かれる。

ハワードはエアラインも手にいれた。TWA(トランスワールド航空)がそれだ。トランス・コンチネンタル・アンドウエスタン航空を買収しTWAとした。国際線を一手に押さえようとしていたPANAM(パンナム)とそのロビー政治家を抑え、ハワードは新型機ロッキード・コンステレーションを大量発注し、ヨーロッパ線を開設する。

映画はこれに加え、多くの女優との恋愛、特にキャサリン・ペップバーンとの時が長く描かれる。ハワードはキャサリンを誘い夜間飛行に出て、何の経験もない彼女に操縦を任せる。本当にあったエピソードだったのだろうか?キャサリン・ヘップバーンはアメリカで最も尊敬を集めた女優だったが、彼女を演じているのはケイト・ブランシェット。本人の方が美人。

TWAのコンステレーション機

全米一、いや世界一を競ったパンナムもTWAも消えてしまった。TWAはアメリカン航空に買収されてしまった。世界で最も経験のある航空会社として暖簾を誇ったパンナムは、ユナイテッド航空や他の航空会社に路線を売って、跡形もなく消えてしまった。なおTWAのマイレージサービスの名称はAviatorだった。

「アビエイター」、映画としては何故かあまり記憶に残っていない・・・。
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現場臨場

ハリウッド 

映画産業華やかなりし頃のハリウッドが登場する。紹介するまでもないが、ロサンゼルスへ東京(羽田、成田)大阪(関西)より直行便多数。東京からはTWAの流れをくむアメリカン航空の直行便もあり。

エバーグリーン航空博物館のH4ハーキュリーズ

オレゴン州マクミンビル

町が映画に登場するのではない。ハワードの作ったH4ハーキュリーズは、たった一度のフライトの後、この町のエバーグリーン航空博物館に納められている。

人口3万人ほどのマクミンビルは、オレゴンの州都ポートランドから南へ65㎞。ポートランドへは成田国際空港からデルタ航空が毎日飛んでいる。

 

なおマクミンビルは古い航空ファンならご存知、日本へもジャンボの貨物機を飛ばして、新千歳空港などではお馴染みだったエバーグリーン・インターナショナル航空の本社があった所で、航空博物館の名称もそこから来ている。また博物館の隣にインドアプールのアミューズメント施設があって、その建物の上にエバーグリーン社の747が載っている。それだけにマクミンビルには747も発着可能な空港(市営)があるが、残念ながら定期便はない。

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紅の翼 (HIGH AND MIGHTY)

DVDすでになし  レンタルで探すのみ  

監督:ウィリアムAウェルマン

主演:ジョン・ウエイン

西部劇のヒーローとして思い浮かぶジョン・ウェインだが、意外にも航空関係の映画にも縁が深く、154本もの映画に出演しているが、この「紅の翼」を始め「ジェットパイロット」など5本が飛行機がテーマの映画だ。

1979年に亡くなったジョン・ウェインが主役だけに「紅の翼」も超いにしえの作品で、日本での公開も1954年9月と60年以上前の作品だ。

 

ジョン・ウェインの役どころは、かつて自らが操縦していた旅客機の事故で、たった一人生還した男で、その事故で客として乗っていた妻と幼い息子も失った、過去あるパイロットとして登場する。事故の所為でキャリアは十分だが、副操縦士として自分より若い機長を補佐する。

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トランス・オリエント・パシフィック航空(もちろん架空のエアラインだが、長い名前をつけたものだ)の420便、飛行機はDC-4で、乗員乗客22名を乗せてハワイのホノルルからサンフランシスコへのフライトだ。今ならこの区間をジェットで5時間半ほどで飛ぶが、作品中飛行士が所要時間を12時間16分と語っている。4つのエンジンを持つとはいえ、プロペラ機は今の倍以上の所要時間をかけて飛んでいた。

離陸後嵐に遭遇し、その中でエンジン一基が火災を起こし、十分な推力を失ってしまう。サンフランシスコまでは燃料が持たない。機長は嵐の海への着水を決断するが、ジョン・ウェイン演じるベテラン副操縦士のダンは、何とかサンフランシスコまで燃料を持たそうと、乗客の荷物を機外に捨て機体を軽くしようと試みる。

航空パニックものの元祖とも言える作品だが、嵐の中を飛んでいるのだが、ほとんど揺れがないので今一つ緊張感がない。ジェットと違って低い高度を飛ぶプロペラ機なので、扉を開けても機内の空気が吸い出されることは無いものの、外気温度はかなり低いはずだが、ドレスに身を包んだ女性客が、結構な余裕で自分のスーツケースなどを機外へ放り出す。

ストーリーは、嵐を飛ぶ飛行機の中で、乗客それぞれの人間ドラマが展開するグランドホテルタイプだが、時折コメディタッチが顔をだして、パニック物のタイトルを忘れてしまいそうになる。

クルーが、機長をキャプテンと呼ばずに、軍の航空隊のチーフを表すスキッパーと呼んでいる。制作が戦後間もないためだろうか。420便は嵐海に着水するのか、何とかサンフランシスコへたどり着くのか。DVDを借りてご覧いただきたい。なお石原裕次郎主演で同名の作品がある。

現場臨場

ホノルル国際空港(アメリカ・ハワイ州)

 

この映画が撮られた頃は、まだ50番目の州ではなく、準州だったからか、サンフランシスコへのアメリカ人旅客へも出国手続が呼びかけられる。さらにチェックインでは年齢と出身州の申告もなされている。

札幌(新千歳)、東京(羽田・成田)、名古屋(中部)、大阪(関西)、福岡の各空港から日米様々なエアラインが直行便あり。

DC-4

当時ダグラス社(現ボーイング)が製造していた4発プロペラエンジンの旅客機。軍用機のC-54 として1000を超える機体が製造されたが戦争後、旅客機へ改造された機体も多く、一時期、日本航空も飛ばしていた。

ひとつ前のDC-3は往年の名機として知られ、カナダなどで今も乗ることが可能だが、DC-4は現在では実機は貨物機として残っているかどうかで、旅客として乗ることは叶わない。

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フライト (FLIGHT)

DVD   監督 ロバート・ゼメキス     主演 デンゼル・ワシントン

 

タイトル通り航空ものだが、アルコール、薬物依存症とのシビアな闘いのストーリーでもある。パイロットは、高いプロ意識に裏打ちされた職業で、特に機長ともなると、単に操縦技術に長けているだけではなく、人格も高潔で、世の模範となるべき人柄が要求される。ところがデンゼル・ワシントンが演じるサウスジェット航空のウィップ・ウィトカー機長は、裏ではフライト中にウオッカを盗み飲みするわ、乗務の前にコカインを吸うわ、とんでもない所業を平然とやってのける。しかし操縦の腕は確かで、30ノットの強い横風の吹く嵐の中を離陸、強烈なタービュランスで副操縦士もビビる中、アルコールの酔いをおくびにも出さず、冷静に機を操る。

飛行機が安定した巡行中は、高いびきを上げて副操縦士をあきれさせる。しかし突然機体の安定は失われ、いきなり下げ蛇となった機体は、真っ逆さまに降下を始める。

これにもウィトカー機長は冷静で、フラップや車輪を出して降下スピードを少しでも落とす操作を行う。それでも下げ蛇が戻らないと判断すると、イチかバチかで背面飛行を試みて、墜落を免れる。

登場する飛行機は、旧マグドネルダグラスのMD-80と思しき機体だ。昔ジャンボジェットが宙返り飛行が可能かどうかの議論を目にしたことがあるが、構造的に可能かどうか結論は出ていなかったように記憶している。この映画のようにMD-80クラスの機体が背面飛行に耐えられるのかどうかもわからない。

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航空マニアが「?」なのは、」不時着前に2基あるエンジンがどちらも火災を起こし、消化スイッチが使われる。そうすると、エンジンの中に消化剤が吹き付けられエンジンは停止するのだが、それにも関わらず、エンジンはその後も回転を保っている様子が描かれる。

飛行機は住宅地を避けて不時着し、6名が死亡するが、そのほかの100名近くが無事生還する。困難な中での見事な不時着で、機長の卓越した技量で多くの人が救われたとウィトカーは称賛を浴びる。しかしその後、アルコール摂取の疑惑など、ウィトカーを英雄とする見方が徐々に変わっていく。

事故調査委員会の公開査問の場で、事故の原因は機体の重大な故障であったことが明らかとなる。しかしそれとは別に、機内で見つかったサービス用ウオッカの空瓶が問題となる。誰がウオッカをあおったのか。機長のウィトカーである事実が明らかになると、終身刑は免れない。追い詰められた彼はなんと答えるのか。

 

現場臨場

オーランド(アメリカ フロリダ州

オーランドのシーンは、雨の駐機場と空港ホテルの一室のみ。オーランドにはオーランド国際空港とオーランド・サンフォード国際空港があるが、登場するのはオーランド国際空港。

オーランドはウォルト・ディズニー・ワールドリゾートがある関係で、訪れた経験のある方も多いだろう。フロリダは温暖で過ごしやすいところだが、フライトで描かれるような嵐もままある。特にここ数年は、フロリダ半島を襲うハリケーンの大型化で大きな被害が出ることもある。

日本から直行便は無い。ダラス、ヒューストン、シカゴ、ニューヨークなどで乗り継ぎ、東京からおよそ18時間

MD-80

モデルとなっている飛行機。残念ながら日本の航空会社では一機も残っていない。かつてはソウルや台北から乗り入れる外国機があったが、こちらもほとんどリタイアで、乗ることはかなわない。アメリカ国内線ではMD-80シリーズの弟のMD-90 シリーズはまだ結構飛んでいる。

ちなみに映画フライトで描かれる、機体の不具合による急降下はモチーフとなった実際の事故があって、2000年にアラスカ航空のMD-83 が急激な降下で太平洋に墜落している。

監督ロバート・ゼメキスは「バックトウザ・フューチャー」が思い浮かぶが、脚本での参加だが「1941」の面白さはぴか一。
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阪急電車      有川 浩  幻冬舎文庫 

      DVD 阪急電車 ~片道15分の奇跡~   スピンオフ版あり

阪急電車の中での出会いを軸に、様々なストーリーが、まるで駅伝のたすきリレーのように展開する。それぞれのエピソードに主人公はいるのだが、主役は舞台となっている阪急電車と言えそうだ。電車は宝塚と西宮北口を結ぶわずか15分ほどの今津線。

関西圏に住まない者としては、阪急電車には、梅田を中心に神戸三宮と京都河原町を結ぶ関西圏の大動脈としてのイメージが先に立つ。9本のホームに次々と電車がやって来る巨大ターミナル大阪梅田の印象が強すぎて、この物語のように“ほっこり感”のあるのどかな阪急電車はこの本を手に取るまで浮かばなかった。物語は今津線の8つの駅ごとに展開するが、燕が駅の軒先に作った巣を大事にするエピソードなど、駅員さんがそれぞれの駅をとても大切にしている様子が所々に登場し、物語を彩っている。

有川さんの創り出すストーリーは、痛快だが暖かさに満ちている。寝取られ女の結婚式討ち入りシーンはハラハラしながら読んだし、暴走おばちゃんらを懲らしめるシーンはいかにもありそうで、相槌を打ちながら読んだ。

彼女の作品は「空飛ぶ広報室」など自衛隊を舞台にした作品が多いが、ラブストーリーでは、読者のくすぐりどころを十分に心得ているだけに、たとえおじさんが読んでも胸にハートマークが灯る。

映画がDVDで発売されているが、先に本を読んで、読者なりに情景を膨らませることをお勧めする。

西宮北口駅

 現場臨場

阪急電車今津線と各駅

阪急梅田から神戸三宮方面の電車に乗り、西宮北口にて乗り換え、宝塚方面が物語に登場する今津線だ。しかし物語でわかる通り、途中、今津と言う駅は出てこない。実は今津線はさらに西宮北口から宝塚とは逆方向へまだ二駅あって、その終点が今津駅だ。

西宮北口駅は神戸本線と今津線が交差する駅で、古い鉄道ファンならご存知だろうが、1984年まではダイヤモンドクロスと呼ばれる、道路の交差点のように両線のレールが平面で直角に交差する、非常に珍しい駅だった。

現在の今津線は、西宮北口を境に南北に分断され、ダイヤモンドクロスは無くなった。

関西の駅名も難読や意外な読み方の駅が少なくないが、今津線の各駅も味がある。逆瀬川は“さかせがわ”、門戸厄神“もんどやくじん”は、門戸厄神東光寺の門前駅だ。小林は“こばやし”ではなく、“おばやし”と読ませる。ソウルの空港のような仁川は“にがわ”だ。

電車とともに、物語に登場する各駅の趣も楽しみたい。

梅田から西宮北口まで、特急12分、各駅停車18分

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タイタニック      監督 ジェームス・キャメロン 

  DVD          主演 レオナルド・ディカプリオ ケイト・ウィンスレット

 

氷山と衝突し、およそ1500人(犠牲者の数は諸説ある)が命を落としたタイタニックの悲劇に関する映像は幾度となく制作されているが、取り上げたのは1997年に公開されたレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが主演した作品。

タイタニックの事故に、フィクションのラブストーリーがマッチし、映像の見事さと合わさって引き込まれる。婚約者や母親と伴に1等に乗る上流階級の娘ローズと、3等船客の貧しいアメリカ人の若者ジャックが出会い、互いにひかれあうが、最後は事故で悲劇的な別れを遂げる。

映画ではこの時代の階級格差が表されていて1等と3等は、互いのデッキも行き来できない。イギリスのホームページENCYCLOPEDIA TITNICAによるとリストで分かっているのは1等には324名、2等が285名、3等には708名が乗っている。1等の船賃は850ポンド以上、それに対して3等は6ポンドほどなので140倍以上の開きがある。今の貨幣価値に換算すると1等は軽く500万円以上になりそうだ。

映画でも上階に逃げようとする3等船客をバリケードの扉が阻むシーンが何度か出てくる。運賃格差が安全格差にもつながっていたと見え、1等船客に比べ3等船客の犠牲者ははるかに多い。

タイタニックは世界で初めて国際救助信号のSOSを発信した船とされるケースもあるが、実際にはこれより前にSOS信号を発信した船がある。この映画の中でも船長が通信士にそれまでの救助信号であるCQD発信を命令する場面がある。タイタニックはSOSとCQD、両方の救難信号を発信している。

アカデミー賞に輝いた映画は何度見ても新たな発見がある、セリーヌ・ディオンの「マイハート・ウィル・ゴー・オン」も素晴らしいし、飽きない作品だ。

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現場臨場

サウザンプトン

航空編、「飛行艇クリッパーの客」でも現場として登場しているが、タイタニックは1912年4月12日、サウザンプトンのオーシャンドックから最後の処女航海に出ている。実際にはフランスのシェルブールとアイルランドのコーブに立ち寄っているので最後の寄港地はコーブになる。

サウザンプトンの「SEA CITY  MUSEUM」にはタイタニックの25分の1スケールモデルと、氷山に衝突し、近くにいたカルパチア号が救助に当たるまでが解説されている。

サウザンプトン

 

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スカイジャック(SKYJACK)       

トニー・ケンリック             角川文庫

360人の乗客を乗せサンフランシスコからニューヨークへ飛び立ったボーイング747ジャンボジェット機が、忽然と姿を消した。レーダーから消えたものの、異常を知らせる交信もなく、墜落した痕跡もみつからない。航空会社へは身代金を要求する連絡が入り、航空事故ではなく前代未聞大誘拐事件であることが分かる。要求額はダイヤモンドの原石で2500万ドル。

離陸後パイロットからは気流の悪いところを避けるため、航路を変更したいとの無線が入り、湖の付近を飛んでいるところでまるでゆっくり降下するようにレーダーから消えた。

FBIが必死の捜査をするが、飛行機や乗客の行方は知れない。ハイジャックされた飛行機が消えてしまっているため、犯人との緊迫のやり取りは出てこない。そればかりか、コックピットやパニックに陥った機内の情況も出てこない。シャドー81同様、犠牲者は一人も出ないのだが、抜群に面白いエンターテイメント小説だ。

その面白さのカギは、事件に関わってしまった売れない弁護士べレッカーと、アシスタント役の元妻アニーのなぞ解きとやり取りだ。2人の言い合い喧嘩は絶妙だ。「べレッカー、私、今でも思っているのだけど、私たちの結婚にも一つだけいいことがあったわね、それだけはいつまでも大事に残しておかなくちゃ」「なんだいそれは」べレッカーはしぶしぶたずねた。「離婚したこと」こんなやり取りが頻繁に出てきて、笑い転げながら読み進むことが出来る。

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犯人グループには小型機のパイロットや元客室乗務員、それに航空会社の荷物係やプログラマーが関わっていて、果たして乗客満載の747型機をどのように消したのか、驚きの結末が待っている。

現場臨場

サンフランシスコ

サンフランシスコの色々な街や通りの名前が登場する。向かいの住人とのケンカ腰のやり取りでは、坂の多い町で車を止めるスペースを確保する日常が目に浮かぶ。きれいな街だが、霧が出ると肌寒い日も多い。

成田、羽田、関西の各空港から直行フライトあり

タホー湖畔のスキーリゾート

タホー湖

747がレーダーから消えたのがこのタホー湖の付近。べレッカーはタホー湖に着水したのではと推理する。カリフォルニア州とネバダ州の境に在って、シェラネバダの山中で標高が高く、世界有数のスキーリゾートでもある。

 

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茜のフライトログ

夏見正隆   トクマノベルズ 絶版Amazonなど

航空ものやファンタジーノベルを得意としている夏見氏の作品を読んだのは実は初めて。新書版のライトノベルで、気軽に読めるが、掘り出し物を探し当てた感がある小説だ。

フライトログとは航空日誌のこと。パイロットも客室乗務員も、それぞれ自分のフライトログを付けていて、飛行時間などの他、フライトごとの事例などを記録している。

太平洋航空の客室乗務員になりたての伊豆丸茜(いずまるあかね)は、OJT(On the job of Training)つまり見習いフライトで、ニューヨークから成田へ飛ぶ。

緊張で一睡も出来なかった茜は、はっきりしない頭で、14時間のロングフライトに臨むが、ビジネスクラス・コンパートメントを担当の茜は食事の盛り付けを間違えるわ、乗客からはしこたま怒鳴られるわ、涙が出そうなことばかり。しかし茜を怒鳴りつけた乗客が倒れる。乗り合わせた医師の診断で、持病の心臓疾患とわかるが、一刻も早い処置が必要となる。しかしカナダからアラスカにかけての航路上は大きな低気圧に覆われ、どの空港も強烈な吹雪に見舞われ、降りることが出来ない。Aの処置をするのか、Bの処置をするのか?空の上での2者択一の選択が求められるが、既往歴が分からないので、手を下せない。

アラスカの空港へ緊急着陸はできるのか。一刻を争う急病人はたすかるのか。

航空ファンも納得できるスリリングな展開が続く。

2004年の初版なので、女性客室乗務員の呼称が、スチュワーデスからCA(Cabin Attendant)に変わったころだ。夏見氏のストーリーは、何より取材が綿密だ。クルーのステイ先のニューヨークのホテル出発から機内までの描写、これだけで物語の半分のボリュームになってしまうのだが、会話の中には、航空業界特有の単語がポンポン飛び出す。さらにいかにもクルーが言いそうなセリフ回しで、ちょっと古めの航空マニアにとっては臨場感抜群。離陸の場面では、茜がOJTの一環でコックピットオブザーブもするので、純なコックピットオタクも満足。しかもこの手の小説はどこか無理な表現や「ありえない!」と思ってしまう記述があるものだが、ほとんど納得、粗さがしの突っ込みどころはない。

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機内で医者を探す「ドクターコール」が行われるが、当初応じる医者はおらず、切羽詰まった所で一人の医者が名乗りでる。医療機器などがない中での診断、処置が強いられるため、医療訴訟などを恐れて名乗り出ない医師もいる。あるアンケートでは、最初のドクターコールで名乗り出る医者の割合は半分に満たないという。この物語はそんな側面も見せてくれる。

 

このタイトルや、登場人物の描き方など、夏見氏はきっとシリーズ化の意図があったのではないだろうか。読者として、アシスタントパーサー、パーサー、チーフパーサーへの茜の進歩も読んでみたかった。

現場臨場

ニューヨークJFK空港

ニューヨークにはこのJFKの他、ラガーディアと、州は異なるが、ニューアークの3空港がある。JFKはご存知の通りジョン・F・ケネディ元大統領に由来していて、その前はアイドルワイルド空港だった。1942年、アイドルワイルドのゴルフコースに滑走路を造ったのが空港の起こりだが、現在6つのターミナルを持つアメリカ東海岸を代表する大空港となっている。

成田、羽田からJFKへ直行便あり。

アラスカ上空

随分と昔は欧米線の飛行機はアラスカのアンカレッジに降りて燃料を補給するのが常だった。今の旅客機は燃料補給は不要としても、アメリカ東海岸やシカゴなどからの便はアラスカ上空を飛ぶ。物語ではアラスカの悪天候に悩まされるが、晴れた中を飛ぶとデナリ(旧マッキンリー山)がきれいに見えることも。アラスカ上空から通信状況の悪い短波無線の通信局「ホンコンドラゴン」を通して、東京のオペレーションセンターとコミュニケーションを取る場面が出てくる。衛星経由のデータ通信が出てこない。アメリカ東海岸と日本や韓国などアジアを結ぶ便は上空通過

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0-8滑走路    アーサー・ヘイリー、ジョン・キャッスル  ハヤカワ文庫

 

航空パニックものに初めて接したのがこの「0-8滑走路」だ。初版が出た1973年に自由が丘の三省堂書店で購入している。あらすじはカナダのウィニペグからバンクーバーへ向かう旅客機の中で食中毒が発生し、機長も副操縦士も重篤な状態に陥り操縦するものがいなくなってしまう。13年前まで戦闘機に乗っていた乗客のジョージ・スペンサーが2人に代わって、無線でのアドバイスを頼りに大型旅客機(思い描いているのはDC-7らしい)を操縦し、着陸に挑む。

中毒の原因となった機内食は鮭のグリルかラム(仔羊)チャップのセレクトだったが、このうち鮭を選んだ人たちが中毒になる。パイロットは2人とも鮭を選ぶのだが、現在のエアラインでは正副操縦士は万が一を避けるため、必ず異なるメニューを選ぶことになっている。

清水政二さんの訳も楽しくて、ランカシャーなまりの訳は関西弁で表現されていて「ホンマにぎょうさん仕事があって」などのセリフが出てくる。

2004年に亡くなったアーサー・ヘイリーは、本書の10年後、1968年にあの「大空港」を上梓するが、共著のジョン・キャッスルに関する資料はあまり見当たらない。ナチスとの闘いを描いた映画「合言葉は勇気」の作者なのだが、「亜音速漂流」など、航空小説のベストセラー作家トマス・ブロックその人なのだ。との記述に出会ったが、確認できていない。

バンクーバー空港

 

現場臨場

バンクーバー空港

物語の後半はバンクーバー空港とジョージの操縦する飛行機のやり取りが中心となる。地上からのアドバイスで大型機を嵐のバンクーバー空港へ導くさまは、本とはいえ興奮する。現場臨場のバンクーバー空港は、3本の滑走路を持つカナダではトロントに次ぐ大空港で、大型飛行機が頻繁に離発着を繰り返すが、小型機での近隣への旅も面白い。ブリティッシュコロンビア州の州都ビクトリアなどへのフライトがお勧め。また大空港では唯一水上機ターミナルがあり、近隣への水上機での定期航空路線もある。

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